こんにちは、ラッコです。
今回は、「ドント・ウォーリー・ダーリン」を鑑賞しました。
オリビア・ワイルドが監督を務めた作品で、主演は「ミッド・サマー」(2019)でブレイクを果たしたフローレンス・ピュー。
監督自らが作品に出演しているという点でも注目の作品です。
「ユートピアスリラー」という新たなジャンルだそうで、映像の綺麗さと俳優陣(とくにフローレンス・ピュー)の熱演に強く引き込まれました。
早速ご紹介していきます!
・綺麗で美しい映像の映画が観たい方
・残酷な描写が少ない映画が好き
・フローレンス・ピューに圧倒されたい方
作品概要
題名 | ドント・ウォーリー・ダーリン(原題:Don’t Worry Darling) |
公開年 | 2022年 |
監督 | オリビア・ワイルド |
キャスト | フローレンス・ピュー(主人公の女性/アリス) ハリー・スタイルズ(アリスの夫/ジャック) オリビア・ワイルド(隣人の妻/バニー) ニック・クロール(バニーの夫/ディーン) キキ・レイン(隣人の妻/マーガレット) クリス・パイン(ビクトリータウンの創設者/フランク) ジェンマ・チャン(フランクの妻/シェリー) |
公式サイト | 「ドント・ウォーリー・ダーリン」公式サイト |
あらすじ
舞台は、砂漠の中に宅地開発されている街、ビクトリータウン。
南国のような雰囲気の街で、ここでは何一つ不自由ない素晴らしい生活が保証されている。
そんなビクトリータウンで、主人公のアリスは、愛する夫のジャックと共に、ご近所の夫妻たちとパーティをしたり、習い事をしたりと幸せそうに暮らしている。
あるときアリスは、ジャックの勤め先の上司であるフランク宅のパーティで、隣人のマーガレットの様子がおかしくなっているのを見かける。
それ以来、アリスの周りで不気味な出来事が起こるようになり、徐々にこの街に違和感を覚え始めるが———————————
感想・考察
これから鑑賞される方へ(ネタバレなし)
話のテンポが良くて、全体の世界観がとても好みでした!
見どころがたくさんあるので、約120分最後まで飽きることなく見入ってしまいました。
理想の生活が叶うビクトリータウン
砂漠の中にぽつんと存在するビクトリータウン。
色鮮やかな豪邸が立ち並ぶその街は、まるでユートピアを彷彿とさせます。
ここでは「夫婦(+その子供)」という単位でしか家庭が存在せず、どの家族も庭付きの豪邸に暮らし、一家に一台は高級車が並ぶという、まさに絵に描いたような理想の生活が送られている様子。
この街で暮らす主人公・アリスは、日中はお酒を飲んで友達とわいわいしたり、バレエを習ったり、時には近くの家の夫婦たちを招いてパーティーをしたり、夫のジャックと共に楽しく日々を過ごしています。
徐々に露見する違和感
そんな理想郷のような街・ビクトリータウンですが、良くも悪くも変化はありません。
アリスの家にはテレビがありますが、流れている映像はずっと同じ。
街の外(砂漠)は危険とされており、外に出られないため、娯楽も限られています。
綺麗な外観に誤魔化されているけど、ほとんど毎日が同じことの繰り返し。
「ビクトリータウンは、実は窮屈な街なのでは?」と観ている側はだんだん違和感を覚えます。
隠されている夫の仕事
そして、男性である夫たちはどうやらみな同じ会社で働いているよう。
しかし、妻である女性はみな、夫が日中どんな仕事をしているのか詳しく知らないのです。
どんな仕事なのかと尋ねても、「革新的な物質の開発を行っている」「素晴らしい仕事をしている」などと、抽象的な部分しか教えてくれない夫のジャックに、アリスの不信感は増すばかり。
その後、とある事件をきっかけに、アリスはこの街ビクトリータウンのおかしな点に気がついていき、最終的に真実に辿り着きます。
物語の途中、アリスがこの街の異常に気づいて不安を抱く場面では、夫のジャックがまったく味方になってくれず、もやもやとした気持ちになりました。
しかし、最後まで観て結末を知ると、「なるほど、そういうことだったのか!」と納得がいくので、アリスとジャックの関係性にも注目しながら観てみていただきたいです!
明るいのに怖い「ユートピアスリラー」
ホラーやサスペンス、スリラーといったジャンルの映画は、基本画面がずっと暗くて、いかにも「こわいですよ!」という雰囲気で作られていることが多いのですが、この作品は、観ている側を、むしろ明るい気持ちにさせるようなレトロでカラフルな色使いが印象的でした。
鮮やかで華やかな雰囲気の中で次々と起こる不穏な出来事は、その明るさとのコントラストも相まって、より気味が悪く恐ろしく感じます。
SNSで話題になっていたことをきっかけに鑑賞しましたが、この“明るく幸せそうに見える世界の裏に隠された真実”というテーマこそ、目を集めた理由なのかなと思いました。
映像の雰囲気が常に明るいため、スリラー映画にしてはどんよりした雰囲気が少なく、すごく観やすかったです。
まさに「ユートピアスリラー」というキャッチコピーがぴったりの作品でした。
フローレンス・ピューの名演
そして、主人公アリスを演じている女優さん。「なんか見たことあるなあ」と思っていたら、「ミッドサマー」で主演を務めたフローレンス・ピューというお方でした。
今作も、ミットサマーと役柄が少し似ている印象を受けました。こういう役柄を演じるのがとても上手なのだろうなと思います。
この女優さんなくしては映画が成り立たなかったのでは、というくらい見た目や雰囲気、表現力まで、この映画の内容にばっちり合っていました。
正直ネタバレなしの感想というのが非常に難しいので、気になっている方にはとりあえず観てみることをおすすめします!
ここからネタバレあり ※未鑑賞の方はご注意
”ビクトリータウン”の真実
誰もが楽しく自由に暮らすことができる”理想郷”のように見えたビクトリータウン。
この世界・・・実は現実ではなく、フランクによって作られた仮想世界でした。
現実世界での生活に不満を持つ男性をターゲットに、フランクは「ビクトリープロジェクト」と名づけ、この仮想世界を作り出しました。
現実でまともに働かず、社会に順応することができないジャックは、同棲しているアリスを巻き込み、このビクトリープロジェクトに参加しました。
目に機械を装着し、そこから流れる奇妙な映像を見続けると、意識は仮想世界であるビクトリータウンへと飛んでいくわけなのですが、アリスはベッドに縛り付けられ、点滴で栄養補給をされ、無理矢理機械を装着させられている様子・・・
ジャックが誘ったものの断られたのか、端からアリスの意見を聞くつもりはなかったのかはわかりませんが、どちらにせよ、アリスを含むビクトリータウンの女性陣は、自分の意志に反して強制的にビクトリータウンへ連れて行かれていました。
ジャックとアリスは現実世界でも同棲していましたが、ビクトリープロジェクトの参加者への調査の中に「”選んだ妻”と既存の関係があるか」という項目があったことから、他の夫婦はもしかしたらお互いが知り合いですらなかった可能性もあります。
作中、最初にこの世界の違和感に気がついたのは、アリスの隣人であるマーガレット。
マーガレットがこの街を信用できなくなっている様子を見て、周りの人々は「マーガレットがおかしくなった」と彼女を変人扱いしますが、マーガレットこそがこの仮想世界の真実にいち早く気づき始めていたのです。
ビクトリータウンでアリスが体験した不思議な出来事は、仮想世界であるが故のバグや、女性陣が真実に気がつかないよう、フランクが世界を操作したことで起きた現象だったのだと思います。
男性は日中なにをしていたのか
男性陣が秘密にしていた”仕事”とは何だったのか。
それは、現実世界に戻ることでした。
仮想世界であるビクトリータウンに入り込めるのは、人間の意識だけ。
つまり身体は、現実世界で「横たわって目に機械を装着した状態」で放置されているわけです。
ジャックは、日中現実世界に戻り、限られた時間の中で、自分は起き上がりご飯を食べます。
そして、アリスの身体をマッサージしたり、水を与えたりと、健康状態に異常がないかを確認していました。
作中はジャックの様子しか描かれていませんでしたが、おそらく他の男性陣も同じように、自身の栄養補給や、自分の選んだ妻のお世話をしていたのだと考えられます。
「ジェンダー」がテーマ
そして、明るく綺麗な映像に騙されかけましたが、作品に込められているテーマはなかなかハードです。
予告やあらすじだけでは読み取れませんでしたが、鑑賞してみると、明らかにジェンダーを意識していて深い意図を持って作られているのだろうなというのを感じます。
本作で登場するビクトリータウンの創設者であるフランクは、モテない男性たちの中のヒーロー(インセルと呼ぶらしい)として描かれています。

監督は、フランクのモデルは「ジョーダン・ピーターソン」というカナダ人の臨床心理学者だと語っているよ
インセルを批判的に描いているにも関わらず、モデルにした人物を明言できるあたり、やはりアメリカと日本とでは全然文化が違うんだなと思いました。(日本だったらめちゃめちゃ叩かれそう)
古い価値観は誰の理想?
フランクが作り出したビクトリータウンは、まるで”みんなが楽しく暮らせる平穏な世界“のように描かれています。
しかしその実態は、男性優位の古い価値観に基づいた、偏った世界でした。
とはいえ、女性があからさまに虐げられているわけではありません。
「夫が外で働き、妻は家庭を守る」といった、性別による役割分担がごく当たり前のように存在しているのです。
もちろん、それが夫婦合意のもとで成り立っているのなら、問題はありません。むしろ、お互いの価値観が一致していれば、理想的な家庭だと言えるでしょう。
ですが、ビクトリータウンの女性たちは、自ら望んでその生活を選んだわけではなく、同意のないまま連れてこられ、洗脳されていました。
つまり、「完璧」だと思われていたこの街は、男性たちの一方的な願望が反映された、偽りのユートピアにすぎなかったのです。
(誰も携帯を持っておらず、部屋に置かれたテレビも古いブラウン管のみ、また、各家庭にある自動車もレトロな型の車ばかりであるところから、そもそも描かれている時代がひと昔前なのだろうと思います)
アリスはどちらを選ぶのか
ビクトリータウンでは、熱心に家事をして夫を支えているアリスですが、現実世界では、医師としてくたくたになって働いていました。
つまり、毎日家事を行い夫を献身的に支えるビクトリータウンでの生活は、アリスにとって望ましいものではなかったのです。
一方現実世界でのジャックは、同棲相手であるアリスに頼りきりで、パソコンばかり触ってまともに仕事をしていない様子。
ひとりじゃご飯もまともに準備できない体たらくで、典型的なダメ男です。



「なんでアリスはこの人と付き合い続けているのだろう」と不思議に思っちゃうね
終盤、ビクトリータウンの真実に気づいたアリスは、ジャックたちの手を振り切って逃げ延び、最終的に“現実世界に戻る”という選択をします。
一方で、隣人の妻バニーは、「すべてを知ったうえで、この世界に残りたい」と語ります。
この発言は、現実社会においても、ビクトリータウンのような性別による役割分担を望む女性が存在することを示唆しているように感じました。
現実世界で自分の意志を貫いて生きていくのか、それとも限られた環境の中で“与えられた幸せ”に身を委ねるのか——。
どちらが正解というわけではなく、どちらも一長一短がある選択であり、個人的にはとても悩ましい二択だと感じました。
それでも、アリスもバニーも、自分自身の意志で選び取り、信念を貫こうとする姿勢はとても印象的で、かっこよささえ感じました。
テーマがよかったからこそもったいない!
こういったジェンダーへの問題提起的な側面のある本作ですが、それをビクトリータウンという世界観で表現したのがすごくよかっただけに、若干設定の詰めが甘いところがありもったいなく感じました。
個人的に疑問が残った部分を何点かあげていこうと思います。
■冒頭のドライブシーン
まずは、冒頭のパーティーの後アリスとジャックがドライブをしていたシーンについて。
このときの二人は例の砂漠で楽しそうにドライブをしているように見えましたが、女性は普段あれだけ「砂漠には行ってはダメ!」と言われているのに、いくら車とはいえこんなに簡単に砂漠に入っちゃっていいの?と疑問が湧きました。
歩いて立ち入ったマーガレットとアリスがあれだけ追及されていたので、絶対に破ってはいけない禁忌のようなものだと思っていましたが、そこまで徹底的に遵守されてはいなかったのでしょうか・・・
はたまた、男性は毎日車で砂漠を通って通勤しているため、男性が一緒にいればとやかく言われないみたいなルールでもあるのかと考えてもみましたが、いまいちしっくりきませんね。
もやっとポイント1です。
■赤色の飛行機の謎
次に、アリスが見た墜落していく飛行機について。
アリスが見た赤色の飛行機は、マーガレットとその息子が砂漠に立ち入ったときに落としてしまったおもちゃの飛行機にとても似ていました。
意味もなく同じにする必要はないし、理由があるのかと思いましたが、話の中ではその理由を読み取ることができず、もやもやしたまま終わってしまいました。
ビクトリータウンという仮想世界を作る過程で「飛行機」としてインプットしたのがあの赤色のおもちゃの飛行機だから、この世界での飛行機はすべて同じものに見えるとか・・・?などと考えましたが、うーんという感じですね。
もやっとポイントが2溜まりました。
■ビクトリータウンの持続性
3つめは現実世界に残された女性たちの身体について。
仮想世界であるビクトリータウンに入り込んでいる間、現実世界での肉体は目を開きっぱなしかつ寝たきりの状態です。
男性陣が毎日現実に戻ってお世話をしているといっても、お風呂には入れられないし、食事は噛むことができないため流動食か水分を摂取させることしかできないとすると、近い将来すぐに健康を害して病気になる可能性があるように感じました。
ジャックをはじめとした男性陣は、最悪の場合女性陣が死に至ることも理解の上でこの計画に参加したのだと思うと、さらに気味が悪いというかもはや胸糞悪いですね・・・
他にも、ビクトリータウンにいるバスの運転手などの夫婦以外の人たちはどうやって連れてきているのだろう、とか、仮想世界に入る前に見せられていたあの白黒の映像は何の効果があるんだろう、とか、最後フランクの妻シェリーはなぜフランクを刺したのか、とか・・・
あえて説明し切らないことで観た側に想像の余地を持たせているという受け取り方もできますが、作品が綺麗にまとまっているだけに、観た側に疑問を残してしまうとただ作り込みが甘いだけのように感じてしまうのではないかと思いました。
まとめ
今回は「ドント・ウォーリー・ダーリン」をご紹介しました!
色鮮やかでバカンスのような雰囲気から一変、徐々に不穏な空気になっていく展開は、まさにユートピアスリラーという謳い文句がぴったりの映画でした!
ほどよい不気味さでグロいシーンもほとんどなかったので、怖い映画が苦手な人でも観れるかと思います。気になった方はぜひご鑑賞ください!
公式サイトがすごく凝っていておもしろいので、こちらもぜひ。
ちなみに、主人公アリスの夫であるジャックが一番最初に乗っていた車はフォードのサンダーバードだそう。
サンダーバードは1950年代に人気を博した高級志向の車で、ヴィクトリータウンの人々が裕福な暮らしをしていることがよく表されています。
車と言えば今も昔も男性のステータスを示すものとしてよく挙げられますよね。
ジャックの昇進とともに車のグレードも上がっているようで、中盤以降はシボレーのコルベット・スティングレイに乗り換えているようです。
レトロな車好きの方はこの辺りも注目してみるとおもしろいかもしれません。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
それでは。
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